金田一耕助の事件簿064b
その可能性が本作品では言及されていた
「壺の中の女」（横溝正史）
（「金田一耕助の帰還」）光文社文庫
画家がアトリエで
何者かに刺殺される。
使用人は血まみれのナイフを
握りしめた女が、
体をくねらせて壺の中に
入っていこうとしているのを
目撃したという。
現場には曲芸に使用される
大きな壺が。
捜査線上には
曲芸師の美少女が…。
以前取り上げた
｢壺中美人｣(1960年発表)と
ほぼ同じ紹介文を掲載しました。
例によって本作品は
｢壺中美人｣の原形作品(1957年)。
横溝正史得意の改稿長篇化です。
【事件簿File-064b｢壺の中の女｣】
〔事件発生〕
事件発生期日不明(東京･成城)
※｢壺中美人｣と同じであれば、
昭和29年と推定される
〔依頼人〕
該当なし
※等々力警部から捜査協力を依頼される
〔捜査関係者〕
浜村刑事
…成城警察署の刑事。
河合巡査
…成城警察署巡査。
警邏中、女に刺される。
等々力警部…警視庁捜査一課警部。
〔事件関係者〕
井川譲治
…アトリエで殺された画家。
サディスト。陶器の蒐集家。
井川マリ子
…譲治の妻。別居中。
橋本たけ
…井川家使用人。品のいい女性。
陳隆芳(山崎亀二)
…曲芸師。壺を井川譲治に売る。
陳華嬢(原田花子)
…壺中美人の曲技師。戦災孤児。
陳隆芳に拾われた。
｢壺中美人｣の読後に本作品を読むと、
かなりあっさりした筋書きに
感じられます。それもそのはず、
頁数にして約6倍の長篇化です。
｢壺中美人｣は登場人物からして
大幅に追加されているのです。
捜査陣をみても、等々力警部以外に
名前と役割を与えられたのは
浜村刑事一人でしたが、
成城署の山川警部補･志村刑事･
三浦刑事･柴田刑事が追加され
(指された巡査は河合から川崎へ変更)、
警視庁も新井刑事が加入し、
大規模捜査となっています。
事件関係者も被害者の先妻･治子、
兄･虎之助、使用人･たけの息子･敬一、
マリ子の愛人･梶原譲次、
離婚調停中として弁護士･鈴木隆介が
追加され、犯人の的の絞り込みを
困難にしています。
つまり、改稿長篇化によって、
より緻密な作品へと
進化発展を遂げたということなのです。
では、その原形である本作品は
無視されてかまわないかというと、
決してそうではありません。
先日の｢壺中美人｣の記事の中で私は、
｢もしかしたら
業者から購入した壺の中に
殺人鬼の美少女が潜んでいて、
被害者の気づかぬうちに
壺からくねくねと抜け出してきて
グサリと一突き！などと
ついつい想像してしまいます｣と
書きました。
その可能性が
本作品では言及されているのです。
「きのう、この壺が
どこからかとどいた。
ところがその壺の中に
壺中美人の曲芸師がひそんでいて、
そいつが井川譲治を殺害して
そのあとでもういちど壺の中へ
かくれようとしたところを
見つけられた。そこで、
かくれるのはあきらめて、
逃げていった」。と、
金田一はもじゃもじゃの頭を
かきむしりながら話す場面が
描かれているのです。
もっとも、殺害後に
壺の中に隠れる必要は全くないことも
示されるのですが、壺を出した以上、
そうした台詞はあって当然です
(長篇化でなぜ割愛されたのか？)。
やはり原形作品を読むと、
横溝の創作過程が読み取れます。
原形作品を集めた光文社文庫の
｢金田一耕助の新冒険｣そして本書
｢金田一耕助の帰還｣の存在は貴重です。
金田一耕助をじっくり味わいましょう。
〔本書収録作品一覧〕
毒の矢
トランプ台上の首
貸しボート十三号
支那扇の女
壺の中の女
渦の中の女
扉の中の女
迷路荘の怪人
（2022.7.8）
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